(2003.4.17作成)
中波ラジオで北京放送を聞いていた頃、よく流れていたのが革命的現代バレエの「白毛女」と「赤軍女性中隊」(原語題は紅色娘子軍、日本語でも紹介最初はこの題だったが、途中で赤軍−に変わった)の音楽でした。このほか、ピアノ協奏曲黄河や革命的現代京劇「紅灯記」というのもありました。
革命的現代バレエ白毛女を見たのは、子供の頃に見たNHKテレビの舞台録画1回だけです。たしか、日中国交回復を記念して、上海バレエ団が来日公演したときのものでした。このとき、赤軍女性中隊も見たはずなのですが、こちらはあまり印象に残っていません。赤軍−のほうは、純粋な革命物語だったと思います。
革命的現代バレエ白毛女は、一見すると”悲劇のヒロインを王子様が救いだす”という、古今東西よくあるモチーフの物語です。革命バージョンの味付けになっているため、ヒロインは貧農の娘、王子は革命兵士になっています。
今考えると、革命的現代XX版の白毛女は重層構造になっていました。
白毛女のもとになった話は、「白髪の仙女」という民話で、革命とはまったく関係がありません。ひどい境遇から逃げてきた娘が、苦労から白髪になって村はずれのお堂に住みついている、という、落ちも教訓もない遠野物語にもありそうな民話です。
1950年代に、文革とは関わりなく、映画化されています(日本の満州の映画人の協力もあった−NHK特集で2006年に放送)。
この民間に流布されていた物語に対して、幼馴染で八路軍に参加した青年が八路軍とともにヒロインを救い出し、解放されたヒロインも八路軍に参加して毛主席と中国共産党をたたえる、という落ちをつけたのが、革命的現代バレエだの交響組曲版の白毛女です。
つまり、民話−>シンデレラ物語−>その実、八路軍、毛沢東と中国共産党の正当性の啓蒙(宣伝)、という構造です。
民話に革命をとってつけたような作品なので、5場と7場は延々毛沢東と中国共産党の宣伝が続き、ヒロインが解放される場面では”毛沢東は太陽だ”と歌いながら太陽に向かって全員で手を差し伸べるなど、くさい場面も多く、かなり引きます(文革時代の歌には、「東方紅」など、毛沢東を太陽と結びつける歌詞が多く、一種の太陽信仰か、民間のそれを利用したのか、と思える)。
白毛女を見たのは一度だけですが、音楽が視覚的でわかりやすく、その後ラジオで聞いてもすぐに「あ、これはあの場面だ」と思い出すことができました。
文革の芸術自体、大衆向けの宣伝を目的としたもので、誰にでもわかりやすい、子供向けレベルでしたが、けっこうきれいな旋律も入っていました(民謡を取り入れていたかもしれません)。
現在では否定されている作品と思いますが、個人的に思い出のある作品なので、さわりだけ紹介したいと思います。当時中波ラジオで録音したもののため、音質はかなり悪いです(電波の揺らぎや、他局の雑音あり)。また、一度しか見ていないため、不確かな部分もあります(全体の構成が7場か8場か記憶が定かでない。今まで8場として紹介してきたが2006年春7場に修正)。有名な「北風吹(北風吹いて)」や、「紅い紐結い」などの曲は、今でも耳にする機会があるかと思うので、ここでは載せません。基本的な目的は紹介なので、もし興味を持たれた場合はCDを購入して聴いてみてください。たぶん、台湾/香港あたりから出ていると思います。著作権については、こちら。
当時の北京放送による白毛女の解説:交響組曲版の解説と出だしの部分
(1975年録音:曲に使われているテーマは、録音前半がヒロイン解放時にうたわれる「毛沢東は太陽だ」の歌のテーマ、後半が八路軍のテーマ曲(八大規律))
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革命的現代バレエ白毛女 録音:1972年
音源:おもに中波の北京放送、多少国内向け放送もあり
いちおう上から下へ、場面の順序に並べました
曲 | 場面 | 解 説 | 長さ |
1場1 | 1場 | 北風吹いてに続く、かわいい旋律の曲。貧しいが父親と二人、幸せに暮らす喜児。(出だしの音質悪し) | 2"08 |
1場2 | 1場 | 上の曲に続く部分で、これもきれいな曲。 | 0"46 |
趙叔叔 | 1場 | 趙おじさんのテーマ。父親が悪徳地主に殺され喜児が連れ去られたあと、悲嘆に暮れる村人たちを八路軍に誘う。他の登場場面でも流れる(雑音を無音処理した箇所あり) | 0"40 |
1場3 | 1場 | 1場のさいご、村人全員で八路軍への参加を歌う。 | 1"06 |
2場は悪徳地主の邸宅でいじめられる喜児、3場で喜児は地主宅を逃げ出す。 |
嵐の前 | 4場 | 嵐の場面の直前の曲。地主の屋敷を逃げ出した喜児は嵐に巻き込まれ、このあと、お堂に住みつくことになる。(別の放送局の雑音あり) | 0"50 |
5場で八路軍によって悪徳地主は打倒され、村人は解放される。 6場で村を追われお堂に逃げてきた元地主と喜児対決、救出に来た八路軍に解放される。 |
7場1 | 6場 | 王大春率いる八路軍がお堂にも来て、喜児も救われる。王大春に出会う直前の場面の音楽。 | 0"53 |
王大春 | 6場 | 王大春のテーマ。1場などでも使用される。(別の放送局の雑音あり) | 0"31 |
6場のさいご、舞台の背景に太陽が現れ、全員で”毛沢東は太陽だ”と歌う。 皆で太陽に向かって手を指しのべる演出。 |
8場1 | 7場 | 物語を総まとめする感じの歌で、序曲でも歌われる。 | 0"50 |
三角帽子 | 7場 | 反革命分子のテーマ。地主が三角帽子を被せられて踊る。5場でも使用。振付はコサックダンス。 | 0"52 |
8場2 | 7場 | 共産党と毛沢東をたたえる歌。(子供の頃、毛主席がマオトーシーと聞こえた) | 1"23 |
8場3 | 7場 | 村人たちが喜んで踊る場面の曲で、けっこうかわいい曲。 | 0"44 |
さいご、中国共産党の旗がひるがえり、 八路軍のテーマ曲(八大規律を歌った曲)が流れて大円団。 |